糖尿病関連情報

GLP-1アナログについて (2009.12.15)

この12月11日つまりほんの4日前ですが、待望久しかった糖尿病の新薬であるDPP-W阻害薬が発売になりました。一般名を「シダグリプチン」といい、同じ薬が別々の名前で二つの会社から併売されています。万有製薬からは「ジャヌビア」、小野薬品からは「グラクティブ」という名前です。それぞれ25mg、50mg、100mgのものがあり、値段・中身とも両者まったく同一のものです。一般的な剤型と考えられる50mgのものが1錠=186円くらいですから、従来の糖尿病薬で言えばアクトス30mg錠と同じくらいの値段であり、3割負担の方で2週間分のお薬代は186×14×0.3≒780円程度が自己負担となります。これだけのコストでどれだけ血糖コントロールを改善してくれるか、まずはこの薬剤のお手並み拝見、というところです。
今回は、前回の「かたくり新聞」で予告していたように、もうひとつのインクレチン関連薬である「GLP-1アナログ」についてお書きしましょう。「アナログ」とは類似体という意味であり、身近なアナログ製剤にはヒトインスリンのアナログがあり、インスリンを注射しておられる方はよくご存知かもしれません。ヒトインスリンをそのまま用いたのでは効果が十分早く出現しなかったり効果が短すぎたりする場合に、ヒトインスリンのアミノ酸配列を少し変えるような遺伝子工学手法を用いることでインスリン作用を調節することができるようになりましたね。超速効型インスリンや持効型インスリンなどがそうした「インスリンアナログ」にあたります。
ですから、GLP-1アナログは「GLP-1に類似したもの」ということになります。インスリンアナログと同様、GLP-1というホルモンに遺伝子工学的に修飾を加えて、薬理作用が都合よく発揮されるようにしたもの、ということになります。GLP-1というのはインスリンを分泌させる消化管ホルモンですが、このホルモンはそのままではDPP-Wという酵素によりすぐ分解されてしまいます。そこで少し人為的な手を加えることで長く効果が発揮されるようにしたものがやっと臨床応用されるに至ったわけです。この薬剤は来年春すなわち2010年春頃に発売される予定です。このお薬の特徴について列挙してみます。

  1. インスリンを分泌させる注射薬であり、今あるインスリン注射用の注射器に似たデバイスで注射できる。一日1回の注射で、あるいは将来的には週に1回注射でOK,というものも使用できるようになりそう。
  2. 今回発売されたDPP-W阻害薬同様、血糖依存性でインスリンを分泌させる。それはつまり、血糖の高いときだけ膵臓β-細胞に働いてインスリンを出させ、血糖の低いときにはインスリンを出させない、ということです。だからインスリンそのものの注射と異なり、過量に打った場合でも低血糖はきたしにくい。
  3. 膵臓では血糖値を下げるインスリンの分泌を促進するだけでなく、血糖値を上昇させるグルカゴンというホルモンを抑制する働きも有している。それらが相まってかなり強力な血糖降下作用が期待できる。ものの本によればこの注射によってHbA1cが1.4%くらい低下している、とか。
  4. 膵臓のみに働くのでなく、その他の臓器にも働いて糖尿病を改善してくれる可能性がある。例えば、食欲中枢を抑えてくれて体重を減少させる働きがある。特にメタボの延長線上にある糖尿病の方にとって有益そう。
  5. メタボで特徴的な脂質異常症である高い中性脂肪値や低いHDL-C(善玉コレステロール)値を是正する働きもあるという。
  6. さらには、ひょっとすると、糖尿病の方で減少する一方だった膵β細胞をある程度復活させてくれる、という夢みたいな作用があるかもしれない。

寒いのが苦手な僕は毎年冬の間中春を恋焦がれているわけですが、今年はこの薬剤の登場もあって、いつも以上に春の到来を待ちわびている、といったところです。

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