糖尿病関連情報

糖尿病の合併症

糖尿病の合併症には大きく分けて急性合併症と慢性合併症があります。
急性合併症に低血糖や、著明な高血糖時に起こる高血糖高浸透圧症候群、インスリンの絶対的欠乏状態で発症する糖尿病ケトアシドーシス、さらには肺炎などの感染症といったものが含まれますが、この度は慢性合併症のみに焦点を当てます。

 糖尿病細小血管障害
   いわゆる糖尿病の三大合併症;@神経障害A網膜症B腎症の三つです。
  (しんけい・め・じんぞうの頭文字をとってし・め・じと覚えていただいています。)  
  これらは高血糖が主因であり、血糖が高くなればなるほど、また罹病期間が長く
  なればなるほど出現頻度が高くなります。細い血管の障害が主体ですから、糖尿
  病細小血管障害と呼ばれ、基本的には高血糖が引き起こす病態です。
  これらを予防するには、HbA1cを目安として、これを可能な限り7%未満で
  キープする、という血糖コントロールが最重要となります。
    
   @神経障害;症状としては、左右対称に足の先から起こるじんじん・びりびりといっ
    た感覚障害で始まりやすく、頸椎や腰椎の病気との鑑別が必要なことがあります。
    自律神経障害では、胃腸や膀胱の運動障害、起立性低血圧やEDなども起こって
    きます。神経障害の早期発見にはアキレス腱反射、振動覚テスト、ギターの弦のよ
    うな、モノフィラメントによるタッチテスト、また心電図や血圧の変動を利用しての自
    律神経検査を行います。

   A網膜症;単純性→増殖前→増殖網膜症と進行しますが、単純性網膜症のうちは
     視力低下を自覚しないのが普通です。視力低下を自覚してから眼科を受診して
     も取り返しのつかない場合がありますから、視力に関わらず平素から眼底検査を
     受けておくことが肝要です。単純性網膜症の時期まではとにかく血糖コントロー
     ルで進行予防。それ以降は眼科的処置が必要となります。

    B腎症;腎症が進行すると最終的には腎不全に対して透析が必要となります。
     正常な状態をT期、透析の必要な状態をX期として、その間が、U期(早期腎症
     期);微量アルブミンが尿中に出現しているもの、V期;持続性蛋白尿、W期;尿
     毒症の時期 と分類されます。つまり、腎症を早期に発見するには、尿中微量ア
     ルブミン検査が必須です。この尿中の微量アルブミンは、実は早期の腎症を教
     えてくれるだけでなく、動脈硬化のリスクをもある程度教えてくれます。
     この検査は細小血管障害・大血管障害の両者を予知するマーカーとなりますの
     で、非常に重要です。血糖コントロールばかりでなく、体重の適正化や特にある
     種の降圧剤など、いろんな手段を用いてでもこれを正常化することが血管合併
     症を予防することにつながります。 血圧が高ければ、細小血管合併症の進展は
     加速されますから、進行予防には血糖管理と並行して血圧管理、なかでも家庭
     血圧の管理が重要です。血糖の厳格な管理が難しい方でも家庭血圧を測定し
     てこれを管理しておく。血圧が高めの方には血圧手帳をお持ちいただいているは
     ずです。

糖尿病大血管障害
 動脈硬化による合併症のことであり、比較的太い血管が障害されますから、糖尿病大血管障害と呼ばれます。
 動脈硬化は、実は高血糖そのものではなく、危険因子が重積することでおこりやすい。特に内臓肥満があれば血圧・糖代謝異常・脂質異常といった危険因子が重複しやすい。そのため、いわゆるメタボの方では、糖尿病の罹病歴が長くない人でも、あるいは糖尿病予備軍の方でも、重積する危険因子によって既に動脈硬化が進行している場合があります。細小血管障害とは発症してくる機転も時期も異なるということを認識しておく必要があります。

動脈硬化によって侵されやすい臓器は脳と心臓と足です。
  @脳血管障害;脳の血管が詰まると脳梗塞となります。
  A冠動脈疾患;心臓を栄養する血管を冠動脈といいます。
            この冠動脈が詰まると心筋梗塞、
            細くなって詰まりかけている状態を狭心症といいます。
  B閉塞性動脈硬化症;足の血管が動脈硬化で狭くなってくると閉塞性動脈硬化症と
                 いいます。歩行していると次第に足が痛くなって歩けなくなる
                 という症状が典型的です。進むと壊疽も起こしてきます。歌手
                 の村田英雄さんが壊疽により下肢を切断され、車椅子でス
                 テージに上がっておられたのを覚えておられる方も多いでしょ
                 う。

これら動脈硬化性疾患の危険因子には主に以下の7つが挙げられます。
  1.肥満 2.過食 3.運動不足 4.糖尿病 5.高血圧 6.脂質異常症 7.喫煙
 
大血管症を予防するには、こういった危険因子の是正が必要。
 食事療法・運動療法をしっかり行い、過体重を改善すること。
 タバコを吸っている方は禁煙。
やはり生活習慣の見直しが最重要だということです。これら7つの危険因子のうち、過食と喫煙以外のものは、運動することで改善が期待されます。運動不足の是正を図ることがいかに重要かおわかりいただけるでしょう。でも、生活習慣の是正のみで血圧・脂質管理が困難でしたら薬物療法も必要となります。
 こういった危険因子を管理しながら、一方で早期発見を目的に、時々動脈硬化の検査を行います。当院では、頸動脈エコー・負荷心電図・手と足の血圧比を測る検査、これらを「動脈硬化の三点セット」として施行させていただいています。
それぞれが脳・心臓・足の血管の動脈硬化早期発見に有用な検査です。 それらの検査の結果、動脈硬化の進行が疑われる場合は、他科の先生と連携し、CTやMRI,血管造影検査などの詳しい検査を行っていくことになります。

 そのほか、糖尿病足病変、癌や認知症、糖尿病に伴う皮膚疾患、歯周病、白内障、骨減少症もマイナーながら、生活の質を低下させる合併症です。
 加えて、脂肪肝や脂肪肝の中でも肝硬変・肝臓癌に移行しうる重篤な肝臓疾患である非アルコール性脂肪性肝炎、また睡眠時無呼吸症候群も肥満に付随しやすい病態ですから、糖尿病に合併してくる疾患として気をつけておかなければいけないものでしょう。

 糖尿病合併症のなんと多く挙げられることでしょう。この度、触れられなかった合併症については、別項で解説ずみ、あるいは今後さらに解説を加えていくことになるだろうと思います。基本的にはそれぞれの慢性合併症がどういった方に発症していきやすいかを知り、排除できる原因を可能なだけ排除していく、そのうえで、これらの合併症を念頭に置きながら、必要な時期に必要な検査で早期発見・早期治療に努める、こういったことが糖尿病診療の基本になるということです。

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