糖尿病関連情報

糖尿病と骨

糖尿病の合併症につき、今までいろいろ書いてきましたが、まだ骨については書いたことがなかったですね。
 少し骨の折れる仕事かもしれませんが、今回は「糖尿病と骨」についての解説をしてみましょう。
「糖尿病で骨密度は低下する」という質問に対して○か×か?答えは×です。意外なことに糖尿病で骨密度は低下していないようです。ただし、骨そのものは劣化しやすい。これは「糖尿病性骨減少症」と呼ばれます。「骨強度」は「骨密度」×「骨質」で表されますが、糖尿病の方では骨密度でなく、骨質の方が低下する。そのため骨折の頻度は非糖尿病の方に比べて2倍にもなる、といわれます。
 では、どうして糖尿病の方で骨質が低下するのか?
詳細の明らかでない部分もありますが、インスリンの作用不足と高血糖が主な原因です。骨形成のもとになる骨芽細胞を増殖させる働きのあるインスリンが不足すると新しい骨ができにくくなる。また、高血糖となると尿量が増え、尿とともにカルシウムが排泄されてしまう。もうひとつは「AGE(終末糖化産物)」が原因となる。以前この稿で「AGE」について解説しましたが、覚えておいででしょうか?血糖値の高い状態が持続すると蛋白質に糖がくっつく「糖化」という現象が起きますね。骨でも血糖が高い状態が持続するとこの現象によりAGEができる。AGEのくっついた、いわば錆びたコラーゲンでできた骨質は、錆びた鉄筋でできたビルのようなもので、柔軟性がなくなり折れやすくなる、というわけです。特に、HbA1cで7.5%以上が持続すると有意に骨折のリスクが高まると言われます。やはり、糖尿病学会が熊本宣言で提言を行ったように、「あなたと、あなたの大切な人のために、HbA1cはできるだけ7%未満にキープする」のが、骨のためにも良いようです。

 では、この骨脆弱性について、その診断と治療は?骨密度は当院でも行っているDXA法や超音波法(こちらはやや信頼性にかけるようですが)といったものがありますが、今まで骨質を正確に診断する方法はありませんでした。最近になりHR-pQCTというCTでの測定法でその診断の道が開けてきつつありますが、まだまだ通常は困難です。骨密度と、その方の臨床的プロフィール(FRAXという問診表があります)から骨折しやすさを評価するのが、現時点では一般的なようです。  
 一方で治療法は格段に進歩してきました。破骨細胞の機能を抑えるビスフォスフォネート製剤がよく用いられ、この系統の薬剤には週に一回や月に一回内服、といったものも出てきました。新しい種類の活性型ビタミンD製剤、また、女性ホルモン様作用を持つ薬、さらには骨形成に働く副甲状腺ホルモン製剤、剤形も内服だけでなく注射薬も出てきて、この分野の薬はいままさに百花繚乱といって状態です。
  しかし、いろんなお薬が出てきたにせよ、まずは生活習慣の是正による予防が第一。散歩やウォーキングなどの運動は、骨形成を盛んにしてくれますし、筋肉に負荷をかけるウエイトトレーニングは骨周囲の筋肉も鍛えてくれることで骨折予防に有用です。日頃の努力をコツコツと、そして転ばぬよう気をつけましょう。

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