歯周病の新しい指標「PISA」
6月2日(日)の朝に放映された「健康カプセル!元気の時間」という番組を見られた方も多いでしょう。
歯周病がテーマということで、僕も興味を持って見てみました。
歯周病とかかわりのある病気にあまたの疾患が挙げられていた中で、糖尿病との関連性が最も強く打ち出されていました。
この番組の冒頭で、「今日の健康カプセル」として謎のアイテムが出てくるのですが、それは「手の模型」でした。
手と歯周病の間にどんな関連があるのだろう、そうやって少しでも興味を引こうとする手法ですね。
出演者は、手と歯周病の関連性にちょっと思い至らず、
「 手動で磨けっていうこと?」とか
「魔の手が忍び寄っている?」とか
「しっかり磨かない奴はビンタ?」とかあてずっぽうでいろんなことを言うんです。
僕は歯周病と糖尿病と「掌」ということで、すぐ「PISA」のことじゃないかなって思いました。
「PISA」とは歯周組織の炎症部位面積(Periodontal inflamed surface area)のことを言います。
今までは歯科では一本一本の歯を、プローブという物差しを差し込んでその深さを測ることで歯周病の程度を表していました。
それから、その、プローブを差し込んだ時の出血も炎症組織の破壊度や炎症の有無を知る指標となります。
しかし、それらは一本の歯の周囲組織の破壊度を局所的に見ているのみですから、口の中全体の指標とはならない。
そこで歯周病学会が、わかりやすい口腔内全体の歯周病度を表すマーカーとして「PISA」という数値を導入しよう、と昨年9月14日に声明を出したのです。
「PISA」は一本一本の歯の潰瘍を全部総計して、何mm2の潰瘍があるかを算出した値ということができます。
歯周病で歯茎の潰瘍がひどいと、全部集めたら人の手のひらほどにもなるよ、という風に言われると、具体的でイメージしやすく、インパクトも大きい。
たとえば、歯科治療前にPISAが2000mm2あった人が、治療後に400mm2になったとすれば、4cmx5cmの手のひら大の潰瘍が2cmx2cmくらいに縮小したんだ、と納得がいきます。
内分泌・糖尿病・代謝内科 2019年2月号 p105より引用
糖尿病患者さんを間に挟んで内科と歯科が連携を推進していくうえで、内科からはHbA1cが高血糖の程度を表す指標、
歯科からはこの「PISA」が歯周病の程度を表す指標として用いられることになりそうです。
ただ、今回の番組では「PISA」という単語そのものが出てこなかったのが不思議であり、不満な点です。
まだまだ、多くの歯科医の先生にこの指標の意義が周知徹底していない、ということなのでしょう。
いずれにしろ歯周病があると、歯周ポケットという窓口から、菌が侵入しそれに対抗して出てくるサイトカインという物質の影響で、 インスリンの効きが悪くなって糖尿病がひどくなったり、動脈硬化を起こしやすかったり、という部分は概ね異論のないところでした。
ただ、ちょっと過剰な演出だな、と思うところもありましたね。
歯周病を改善したら、HbA1c11%あったのが、どんどん血糖値が改善し、しまいにインスリンが要らなくなったという風にとれる患者さんの紹介。
この患者さんは、「動けなくなった」のだから、その後入院して、「インスリンを一日4本打っていた(放送のまま)」でしょうから、 血糖が下がったのはインスリン強化療法のおかげでしょうし、それにより糖毒性が改善し、また、入院における生活習慣の改善と相まって、インスリンが不要となったものと想像されます。