心不全パンデミック
「パンデミック」という言葉は、新型コロナウイルスの流行で一般的となりました。
パンデミックをwikipediaでひもといてみると、「ある感染症(伝染病)の世界的な大流行を表す語」とあります。
心不全は感染症ではないのであまり適切ではないような感じもしますが、まあパンデミックを「一気に増えること」と解釈してください。
そうなんです。糖尿病の方に限ったことではありませんが、今後心不全の方が一気に増加してくることが予想されているのです。
そのため、心不全パンデミックという言葉が用いられ警鐘が鳴らされるようになりました。
(実はコロナ以前から心不全パンデミックという言葉はすでに使用されていました。)
特に糖尿病の方にはいろんな心疾患が合併しやすい。
狭心症、心筋梗塞、心臓弁膜症、心房細動などの不整脈、心筋症、高血圧などなど。
心不全はそれらすべての心疾患が原因となります。
加えてもう一つの発症要因が「高齢化」です。
従来、心不全があまり問題視されてこなかったのは、糖尿病患者さんの死因として、他の原因のほうがよほど多かったからでしょう。
今まさに糖尿病患者さんも長生きが期待できる時代となったために、次のターゲットとして上昇してきた疾患が心不全ということになります。
心臓の機能は血液を全身に送るポンプの働きです。
心不全だったら、心臓の収縮力が低下して血液を押し出せなくなるのだろう、と思われるかもしれません。
確かに以前はそういった収縮不全型のものが主体だったのですが、最近、心臓がうまく広がらないために起こってくるもの−拡張不全型−が多くなってきています。
原因として後者はどうも血管の機能が低下するために、起こってくるらしい。全身の血管から血液が環流してきて心臓に血液が充満する、といったプロセスがうまくいかなくなる、そういった方が糖尿病の方、特に高齢女性で増加しているのです。
厄介なのは、こうした拡張不全型心不全の方では収縮機能は保たれているため、初期には症状が出にくく、胸部X線でも心電図でもわかりにくいということです。
進んでくると、動悸や倦怠感、夜間頻尿、そして浮腫、労作時息切れといったものが出現してきます。
では、早めにこの心不全に気づく手段はないのか、というと、早期発見にBNP(もしくはNT-Pro BNP)の測定という手段があります。
BNPは心筋細胞から出るホルモンで、心臓の働きが正常な方では非常に低値なのですが、心臓に負担がかかってくるとSOSの信号として血中に上昇してきます。
この3月に発表された「糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント」では、糖尿病患者さんでは、年に一回はこのBNPを測定することが推奨されています。
異常があるようであれば、循環器内科の方で心エコー検査を行っていただくことになります。
心不全の一般的な予防策としては、基礎疾患の治療に加えて
- 禁煙
- 節酒
- 減塩食
- しっかりと体を動かすこと
- 体重・浮腫の管理
- 風邪などの感染症の予防
ということになります。
特に拡張不全型心不全は身体活動度が低い方に多いので、しっかり平生からウォーキングや運動を行なっていただき、血管の働きを保って血液を心臓にしっかりっと還流させることが重要なようです。
糖尿病薬のSGLT2阻害薬も心不全に予防的に働くと考えられています。