インスリン分泌細胞を守る
インスリンを分泌するのは、ご存じのように膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞です。
一般的な2型糖尿病はこのβ細胞のインスリン分泌能力が半分くらいに減少して発症することが多いとされています。
では何故β細胞が減少していくのでしょうか。
糖尿病が全世界的に増加したのがなぜかを検証するとその答えがわかります。
インスリンは血糖値を下げるホルモンという理解では不十分で、食べたものを体内に取り込むためのホルモンと理解してください。
全世界的に肥満〜栄養過剰の方が増加してきて、インスリンが相対的に不足するようになった。
内臓肥満、つまり内臓脂肪という貯蔵庫に目いっぱい栄養を蓄えすぎたことで、ついには限界に達してインスリンが働きにくくなる(インスリン抵抗性といいます)。
β細胞が一生懸命頑張ってもそれ以上は体内に栄養を詰め込めなくなって、血中に糖や脂肪があふれ出してくるわけです。
この、β細胞が体内で一生懸命頑張っている様子を図1でお示ししました。
荷物が多いとβ細胞は疲弊していきますよね。
もうひとつβ細胞が減少する原因となるのが高血糖です。これを「糖毒性」といいます。
血糖値が上がるとβ細胞はインスリンを出すよう指令を受けます。
高血糖が続くと、もっとインスリンを出せ、とずっと鞭打たれているようなものです。
それではβ細胞もバテるでしょう。
これを例えたのが図2です。
具体的にはHbA1c7%あたりからがβ細胞にとっては上り坂です。
高血糖でβ細胞がどんどん疲弊していくということがご理解いただけますね。
こういう状態でインスリンを無理に出させる治療、例えばSU剤は、自転車を坂道で立ってこぐようなものです(図3)。
峠を登り切ることができなければ、β細胞は疲れはててしまって、もうこげなくなる―インスリンはどんどん出なくなる。
インスリン抵抗性と糖毒性を解決すればβ細胞の疲弊はある程度防げることになりますが、具体的に言うと、それは肥満・運動不足の解消と、高血糖の是正、ということになります。
図4の電動補助付き自転車はβ細胞にとってインスリン治療にあたります。
勾配が急ならば、インスリンという電動補助を使用して、峠を登りきるという方法があります。
一方で荷物〜体重〜を減らす治療としては、以前にご紹介しているSGLT-2阻害剤(尿糖を出させる働き)やGLP-1受容体作動薬(食欲を抑制する働き)といったものもありますが、少しコスト高です。
減少したβ細胞を増やすことは現時点ではできません。
ノーベル賞をもらわれた山中伸弥先生の研究にiPS細胞というのがありましたね。
iPS細胞はいろんな細胞になることができ、それを用いる医療は、失われた細胞を増殖させ、その機能を回復できる夢の技術です。
しかし、それが糖尿病治療に応用されるのはまだまだ当分先のことでしょう。
それまでは、まずはしっかり毎日体重測定を行い適正体重での血糖コントロールを目指す。
体重が増えたら、何か我慢してでも元の体重に戻して良好なコントロールを保つ。
そういった地道な努力がすなわちインスリン分泌細胞を保護する手段となるわけです。
作画:AKH