糖尿病と眼の病気
(副院長 杉廣貴史)
糖尿病糖尿病網腺症
以前は成人の失明原因の第1位でした。
現在は治療の進歩により、緑内障、網膜色素変性症に次ぐ第3位 まで後退しています。
網膜は眼の奥にあり、カメラに例えるとフィルムやセンサーにあたる部分です。
網膜には細かい血管が密集しており、高血糖によりその血管に障害が生じた状態が糖尿病網膜症です。
糖尿病がある人の6~7人に1人は糖尿病網膜症が出現していると報告されています。
最初は毛細血管の一部がこぶのように腫れる毛細血管癖、血管から血液がにじみでた点状・斑状出血、血液中の成分がしみだした硬性白斑が現れます。
単純網膜症と呼ぶ段階で自覚症状はありません。
進行して血管に詰まりが生じると、増殖前網膜症となります。
自覚症状はありませんが、黄斑浮腫を来すと糖尿病黄斑症となり急激に視力が低下します。
この時期にレーザー光凝固で血流が悪くなった部分を潰しておくことが、進行の抑制に重要です。
血流が悪い部分に酸素や栄養を送り込もうとして新生血管が伸びてくると増殖網膜症となります。
この血管は大変もろく、出血すると視力に大きな影響を及ぼします。
また新生血管からの刺激で増殖膜が形成されると網膜を牽引し網膜剥離を来します。
この時期になってはじめて急に自党症状が出現しますが、慌てて治療を受けても元の状態に戻すことが難しい場合も多いです。
糖尿病黄斑症
黄斑とは、眼底のほぼ中央に位置する黄褐色の部分で、視野の中央にあたり最も視力が高いところになります。
この部分に血流障害の影響で浮腫が起こると、視力に影響が出ます。
レーザー光凝固や抗VEGF薬の眼球内注射で治療します。
白内障
透明な水晶体(カメラに例えるとレンズの部分)に濁りが生じた状態です。
まぶしい、目がかすむなどが初期症状で、進行すると視力が低下します。
多くは加齢による変化で、60歳を過ぎると症状を自覚する人が増えますが、糖尿病では高血糖により水晶体の成分に変化が起きやすく、20~30代で白内障を発症する方もいます。
白内障の進行を抑える目薬もありますが、根本的な治療は手術です。
濁った水晶体を人工のレンズに置き換えます。
術後の感染症などのリスクを抑えるために、血糖値の管理をしっかり行っておくことが大切です。
新生血管緑内障
糖尿病網膜症が進行し網膜の血流が悪くなると、眼の前の方にも新生血管ができてきます。
これが増加すると眼房水の流れが妨げられ眼圧が上昇し、新生血管緑内障となります。
緑内障の原因には他にも様々なものがあり、40歳以上では20人に1人が緑内障と言われており、成人の失明原因の第1位となっています。
角膜障害 角膜は眼の表面にある透明な膜です。
糖尿病では涙の分泌が低下したり、角膜が傷つきやすくなったりするため、ドライアイや角膜の炎症が起こりやすくなります。
屈折・調節異常 血糖値は水晶体の厚みに影響すると言われています。
高血糖状態が続くと水晶体の屈折異常が起こり、近視や遠視が進行したり、老眼が早く出現したりすることがあります。
血糖値が急激に変化した時も同様の変化が起こりやすくなります。
糖尿病では様々な眼の異常が出現してくる可能性があります。
自鴛症状がなくても、定期的に眼科を受診しましょう。
歯周病と糖尿病の深い関係
糖尿病を患っている方は歯周病になりやすいことがわかってきました。
一方で、歯周病になると血糖コントロールが悪くなるとも言われています。
毎日ケアを行い、定期的に歯科を受診し口の中の健康にも気を付けましょう。
「歯周病」には、炎症が歯肉に限局した「歯肉炎」と、歯を支えている歯槽骨が破壊されて歯を失ってしまう「歯周炎」があります。
歯周病と糖尿病は相互に悪い影響を及ぽします。
糖尿病をお持ちの方では歯周病が悪化しやすく、歯周病があると糖尿病の血糖コントロールが難しくなることがわかっています。
そして最近の研究では、歯周病の治療をきちんと行うと血糖値が改善するということもわかってきました。
歯周病があると、どうして血糖値が高くなるの?
なぜ、歯肉の炎症である歯周病が糖尿病に関わってくるのでしょうか。
出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体内に放出されています。
中等度以上の歯周ポケットが口の中全体にある場合、そのポケットの表面積の合計は手のひらと同じ程度と考えられています。
歯周ポケットの中身は外からはなかなか見えませんが、手のひらサイズの出血や膿が治療なしで放置されていると考えると、からだ全体からも無視できない問題であることが理解できると思います。
ポケットから入って血流にのった炎症関連の化学物質は、体の中で血糖値を下げるインスリンを効きにくくします(インスリン抵抗性)そのため、糖尿病が発症・進行しやすくなります。
お口の中をチェックしましょう
お口の健康は、毎日の食事や会話にもつながるとても身近なものです。
皆さんは、このようなお口のトラブルを自覚することはあるでしょうか?
- ハブラシの時に出血する
- 起きた時に歯肉に違和感がある
- ロ臭を指摘された
- 歯肉が下がって、歯が長く見えるようになった
- 体調が悪くなると歯肉が腫れる
- 歯の揺れを感じることがある
上記のようなトラブルがある場合は、歯科を受診してみましょう。
かかりつけ歯科医院を作りましょう
歯を失わないということは、生活の質を直接低下させないだけでなく、生活習恨病や認知症などの予防や管理にも深く影響してきていることが明らかになってきています。
歯周病コントロールのためには、歯科医院での予防的なケアや専門的なアドバイスを受けるのが有効です。
定期的なブラッシング指導を受け、自己流の間違ったブラッシングを続けないことが大切です。
かかりつけの歯科医院を作り、年に1~2回の口腔内のチェックとクリーニングを行うことが、歯周病と糖尿病の管理という観点からだけでなく、将来の快適な生活にもつながるでしょう。