糖尿病関連情報

糖尿病からダイアベティスへ

(副院長 杉廣貴史)

糖尿病に対する差別や偏見の存在は、糖尿病のある人に社会的・経済的不利益を与え、社会的地位や自尊感情を損なうことにつながります。
これが糖尿病におけるスティグマで、糖尿病の治療目標「糖尿病のない人と変わらない寿命とQOL」の達成には看過できない問題です。
スティグマはギリシャ語が由来で、もともとは奴隷や犯罪者につけられた烙印を意味しました。
キリスト教ではイエス・キリストが十字架にかけられたときの傷、聖痕を意味します。
現代では、根拠のない差別や偏見により不当な扱いを受けることを意味しています。
日本語では不名誉な烙印と訳されます。

糖尿病におけるスティグマの具体例には、

「糖尿病は早死にする」→「生命保険に入りにくい」、「住宅ローンが組みにくい」 「生活習慣が悪いからなる」→「食べ過ぎ、運動不足、不摂生、自己管理能力が低いと責められる」 などがあげられます。
実際には、糖尿病のある人とない人での寿命差は年々縮まっており、現在ではかなり少なくなっています。
また生活習慣は糖尿病の発症において誘因の一つに過ぎません。
不正確な情報や知識がスティグマを引き起こしています。
糖尿病の治療が未発達だった時代の負のイメージを引きずっているとも言えます。

スティグマを避けるために、糖尿病であることを職場や学校、時には家族にも隠して、誰にも相談できなくなったり、宴会や会合に行くのをやめたりするなど、社会との分断を生じることもあります。

特定の問題に関する社会的弱者の権利を守り、社会に対し主張・提言を行うことをアドボカシーと言います。
日本語では擁護と表現されます。
糖尿病におけるアドボカシーの目標は、スティグマや健康格差を改善し、適切な治療を促進し、糖尿病のない人と変わらない良質な人生を全うできる社会を実現することです。

現在JADEC(日本糖尿病協会)と日本糖尿病学会はアドボカシーに積極的に取り組んでいます。
そのなかで、「糖尿病」の呼称を「ダイアベティス」へ変更しようという動きがあるのをご存じでしょうか。
「糖尿病」に含まれる「尿」という言葉が誤解や偏見につながっていると考えられており、また糖尿病のある人自身も病名に抵抗感や不快感を持っていることが変更の理由となっています。
英語の病名「Diabetes Mellitus」の一部をカタカナ表記したものです。
Diabetesはギリシャ語でサイフォンの意味で、液体が流れるさま、口喝・多飲・多尿の症状で水が体内をどんどん流れていく印象からつけられました。
その後17世紀に尿が甘いことが発見され、ラテン語で蜜を意味するMellitusが加えられました。
日本では長らく「消渇」と呼ばれてきましたが、明治に入り、蜜尿病そして糖尿病と名称が変わり現在に至ります。

スティグマを撤廃していくには、社会全体の取り組みも重要ですが、糖尿病治療において医療従事者一人一人がスティグマの要因にならないように取り組むことも求められています。
また患者さん一人一人がダイアベティスとうまく付き合いながら、社会で活躍し、楽しい人生を送り、その姿を周囲に理解していただくことが、身近なスティグマの撤廃、ひいては社会全体でのスティグマ撤廃へとつながっていくのではないでしょうか。
正しい知識を持ち、みんなでスティグマのない社会を目指していきましょう。


ページトップへ